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 最近は何でも金、何事も形式と割り切って考える風潮があるようですが、まことに残念なことです。

 たとえば、お葬式にしても「形式的で、くだらない」と思っている若者たちがいます。

 確かに位牌は木ですし、花は後向きにあげてある、食べられないのに霊供膳(りょうぐぜん)もあげてあります。見方によっては、無駄なことのようにも思えるでしょう。しかし、そこに故人を偲ぶ人の真心があれば、決して形式だけのものではなくなるのです。葬式という表面だけの形式にとらわれるのではなく、無心に故人を偲ぶ人たちのまごころがあれば、それが何よりの供養になるのです。

 葬式に限ったことではありません。ホテルの中の式場で、祀(まつ)ってある神様も知らないのに、その前で永遠の幸せを誓う形式ばかりの結婚式、一つ屋根の下にいるというだけで会話もろくに無い形式ばかりの家庭、食べさえすればいいという形式だけの食事、世の中には形式的なものだらけです。そうした中で、安閑と日々をすごしているだけでは、とても価値ある人生とは言えません。

 人生とは「人の一生・人間の生活」です。「生活」の「生」も「活」も「いきる」という字です。「生」の方は、呼吸をしていれば《生きている》のですから使えるわけですが、「活」の方は、<活き>が良くないと《活きている》とは言えません。つまり、ただ呼吸をしているだけでは、「生活」とは言えないのです。<活(い)き>が良い、即ち活力が漲(みなぎ)っている人は、どんなに高齢者であっても、息をして《生きている》と同時に、与えられた命を力一杯頑張って《活きている》わけですが、若くても無気力で覇気の無い人間は、せっかく与えられた命を無駄使いしているのであり、ただ息をしているだけの《生きている》に過ぎないのです。

 そして、この《活きる》というのは、何も自分に限ったことではないのです。他のものを《活かす》ということも大切なのです。

 鎌倉時代後期に、能登の律院であった総持寺を禅院に改めて活躍した螢山紹瑾(けいざんしょうきん)禅師(仏慈禅師)は、後醍醐天皇から数多くの疑問を出された際に、深密且つ卓越した答えをしたことで有名です。

 ある時、後醍醐天皇が

 「人は皆、先祖や父母のために膳をあげ、湯茶を供えるが、少しも減ってはいない。これで本当に供養のまことが届いているのか?」

 とお尋ねになられた時、

 「花の香りはあたり一面に匂っていますが、その花の芯は少しも損なうことがありません。また、私どもがその香りをきいても、鼻に跡が残るということもありません。まことの供養というものは、すぐに形に現われて反応があることを期待するものではありません。雨や露が自然に草木に潤し育てるように、無心に行われるのが最上です。要は、私どもの真心一筋です。」

 と、答えておられます。
 水を用いる時は、水の命、火を扱う時は火の命を粗末にしない、そしてそれぞれの持ち味を活かし真心を込める、その一つ一つがまことの供養なのだ、と諭(さと)されています。

 大切なのは心なのです。心を込めて供養しようとすれば、自ら形も整ってくるものなのです。形式だけでなく、真心のこもった供養をしなくてはなりません。
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