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ここ数十年来の交通網・通信技術の進歩はめざましく、そのおかげで世界は狭くなり、EメールやFAXによって、一瞬のうちに交信できる時代になりました。たしかに、私たちの生活は、効率よく快適になったに違いありません。しかしその反面、子供にまでヴァーチャル・リアリティー(Virtual reality)溢れるゲームが普及し、画面上の戦争や交通事後を弄び、ゲームでは他人を殺傷してもすぐ再生するせいか、錯覚を起こし、その延長として実際の殺傷事件を起こす人が、後を絶ちません。このまま行けば、凶悪犯罪は益々多発し、抜き差しならぬ状態になってしまうことでしょう。

近年は、「何でも欲望のままにしたい放題できる」ことが自由であるかのような錯覚をしている人がいます。しかし、それは大間違いなのであって、自分に権利が与えられていると同様に、他人にも権利が与えられているのですから、他人の権利を侵害したら刑事事件として告訴され、逮捕されることになります。人間社会には、守るべき義務やルールがあります。それを無視して欲望のままに振る舞ったなら、それは畜生です。

私たちは畜生ではありませんから、欲を制さなくてはなりません。ところが、現実にはかなりの社会的地位や肩書きのある人であっても、羽目を外して、司直の手にかかる人もいます。現代人の多くは、財産や名誉や権利を獲得することに汲々としています。どれも、死後あの世へ持って行けるものではないのに、それらを得るために奔走し、あげくの果てには周囲から顰蹙や嫉妬や怨憎を受け、後ろ指を指される人までいます。それよりも、他人や社会のために尽くし、惜しまれて一生を終わった方が、どんなにか尊いに違いありません。

日本は戦後、めざましい復興を遂げて経済大国となりました。バブルがはじけたとはいえ、依然として物余りと飽食の時代が続いています。しかし、先進7ヶ国の食料自給率を見ると、カナダ、フランス、アメリカ、ドイツ、イギリス、イタリア、日本の順で、日本の自給率は先進7ヶ国の中では最低の40%で、特に大豆や食肉などの主要なものは、ほとんど輸入に頼っている状態です。ましてや、文明生活に必要不可欠な電力や燃料などは、中近東からの石油に依存しており、このまま無制限に消費を拡大し続ければ、真っ先に自滅してしまうことは明らかです。国連大学副学長で生態学者でもある安井至博士は、いくら日本の出生率が低下したといっても、相変わらずの人口過多で、今後300年で3000万人ぐらいは人口を減らさねば、健全な生活は保てないだろう、と言っています。

アメリカの社会学者で、スワスモア大学のバリー・シュワルス教授は、物が溢れる現在のような豊かな社会では、選択肢や豊かさが増加するにつれ、幸福感は逆に低下するのであり、過去30年間でアメリカのGDP(国内総生産)は2倍になったが、「非常に幸せ」と感じる人は5%減ったと言います。たしかに、アメリカ人は大食漢が多く、3人に1人ぐらいの割合で肥満を訴え、数十年後には平均寿命が8%下がると、予想されています。そのため最近では、健康と相互依存性を重視した生活様式(有機栽培・省エネ電化製品・低燃費車など)の商品開発に、力が注がれています。

しかし、ブータン(Bhutan、ヒマラヤ山脈の中の王国)では以前から、物質的豊かさを測るGDP(国内総生産)よりも、精神的豊かさを測るDHP(国内幸福高)を重視してます。これは注目すべきことだと思います。
 しばらく前に来日した、ノーベル賞受賞者でケニアの環境副大臣のワンガリ・マータイさんは、経団連の奥田碩会長(当時)を訪ねた際に

「日本に来て、《もったいない》という素晴しい言葉を知りました」

と話していますが、現代の日本人は物の豊かさに溺れ、この言葉を忘れているのではないでしょうか。食べ放題の大食い競争などを喧伝して無駄な消費を煽るなど、全くもったいない話です。

京セラの名誉会長であり、私たちの本山である京都の妙心寺の微笑会(妙心寺の文化財を守る会)の会長でもある稲盛和夫さんは、

「企業経営者としては、口にすべきではないが…」

と前置きした上で、

「純利益よりも売り上げ増を望む、わが国の経済発展至上主義には疑問を抱いています。私は不要なものは減らし、良いものを少しいただいて感謝する【少欲知足】の精神を推奨すべきだと思います」

と、語られました。

かつての日本の食生活は、野菜や魚介類が中心でした。コレステロールの多い肉類を多く摂取し始めたのは、戦後のことです。たしかに栄養価は増し、体格は格段に良くなりました。医療技術の進歩とあいまって、世界一の長寿国にまでなりました。しかし、一方では心臓病や脳梗塞に因る死亡率は格段に高まり、いずれは日本もアメリカ同様、平均寿命が下がることは必至です。そうならないためには、普段から自分の健康に留意し、心の豊かさを失わないように、ゆとりある人生を送るように努めなくてはなりません。
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