他の法話へ | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 12 | 13 | 14 | 15 | 16 | 17 | 18 | 19 | 20
| 21 | 22 | 23 | 24 | 25 | 26 | 27 | 28 | 29 | 30 | 31 | 32 | 33 | 34 | 35 | 36 | 37 | 38 | 39 | 40
| 41 | 42 | 43 | 44 | 45 | 46 | 47 | 48 | 49 | 50 | 51 | 52 | 53 | 54 | 55 | 56 | 57 | 58 | 59 | 60
| 61 | 62 | 63 | 64 | 65 | 66 | 67 | 68 | 69 | 70 | 71 | 72 | 73 | 74 | 75
 平成13年4月、東京の三軒茶屋駅で、男性銀行員(当時43才)が、18歳の少年2人に殴られ、死亡するという事件がありました。障害致死罪に問われた少年2人の判決公判は東京地裁で行われ、山室恵裁判長は求刑通り、それぞれ懲役3年以上5年以下の不定期刑とする実刑判決を、言い渡しました。
 判決後、反省の色が見られない2人に対し、山室恵裁判長は
 「唐突だが、さだまさしの『償い』という歌を聴いたことがあるだろうか?」
と、切り出しました。うつむいたままの2人に、
 「この歌の、せめて歌詞だけでも読めば、なぜ君らの反省の弁が人の心を打たないのか、わかるだろう」
と、裁判長が異例の説教をしたことは有名です。
 『償い』は、昭和57年に、さだまさしが知人の実話を元に、作詞作曲した歌です。交通事故で夫を亡くした奥さんの元へ、加害者の若者が仕送りを続け、7年後にやっと謝罪を受け入れてもらえたという話です。
 この裁判長のことを聞いた、さだまさしは、
 「法律で心を裁くには、限界がある。今回、実刑判決で決着がついたわけではなく、心の部分の反省を促したのではないでしょうか?」
とコメントし、さらに
 「この歌の若者は、命がけで謝罪したのです。人の命を奪ったことに対する、誠実な謝罪こそが大切ではないでしょうか。裁判長は、そのことを2人に訴えたかったのでは?」
と、語っています。
 『償い』の歌詞は、次の通りです。
   月末になると、ゆうちゃんは
   薄い給料袋の封も切らずに
   必ず横町の角にある 郵便局へ
   飛び込んでゆくのだった
   仲間はそんな彼を見て、みんな
   貯金が趣味のしみったれた奴だと
   飲んだ勢いで 嘲笑っても
   ゆうちゃんは ニコニコ 笑うばかり
   僕だけが知っているのだ
   彼はここへ来る前に たった1度だけ
   たった一度だけ 哀しい過ちを
   犯してしまったのだ
   配達帰りの雨の夜 横断歩道の人影に
   ブレーキが 間に合わなかった
   彼はその日 とても疲れてた

   人殺し あんたを許さないと
   彼をののしった
   被害者の奥さんの涙の足元で
   彼はひたすら大声で泣きながら
   ただ頭を床にこすりつけるだけだった
   それから彼は 人が変わった
   何もかも忘れて 働いて 働いて
   償いきれるはずもないが せめてもと
   毎月 あの人に仕送りをしている

   今日 ゆうちゃんが 僕の部屋へ
   泣きながら 走り込んで来た
   しゃくりあげながら
   彼は1通の手紙を抱きしめていた
   それは事件から数えて ようやく7年目に
   初めてあの奥さんから
   初めて彼宛に届いた便り

   「ありがとう あなたの優しい気持ちは
    とてもよくわかりました
    だから どうぞ送金はやめて下さい
    あなたの文字を見るたびに
    主人を思いだして 辛いのです
    あなたの気持ちは わかるけど
    それより どうか もう
    あなたご自身の人生を
    元に戻して あげてほしい」

   手紙の中身は どうでもよかった
   それよりも 償いきれるはずもない
   あの人から 返事が来たのが
   ありがたくて ありがたくて
   ありがたくて ありがたくて
   ありがたくて

   神様って 思わず僕は叫んでいた
   彼は許されたと 思っていいのですか
   来月も郵便局へ通うはずの
   優しい人を 許してくれて ありがとう

   人間って 哀しいね
   だってみんな優しい
   それが傷つけあって かばいあって
   何だか もらい泣きの涙が 止まらなくて
   止まらなくて 止まらなくて
   止まらなくて
 裁判で、2人は「深くおわびします」と口では言うものの、一方では「酔っ払った被害者が絡んで来た結果の過剰防衛に当たる」などと、主張したそうです。それに対し、裁判長は「被害者に、命を奪われるまでの落ち度は無かった」と弁護側の主張を退けました。 被害者の兄は閉廷後会見し、「裁判長に遺族の思いをくんで戴いた。彼らも判決を肝に銘じて、しっかり歩んでほしい」と話し、真の更正を期待していました。
 2人の少年のうち、1人は拘置中の東京拘置所で、この『償い』の歌詞の書かれた手紙を読んだといいます。さだまさしのCDを持っていた少年の叔母が歌詞を書き写し、判決の翌日に拘置所宛に投函したのを、受け取ったのです。
 後日、接見した母親が感想を尋ねると、
 「これから(=出所後)の事だよね」と答えたそうです。「たとえ長い年月がかかっても一所懸命やって遺族に誠意を見せないと……」との問いかけに、「わかってる」と答えました。また母親が「他人に許しを請うのは簡単なことではないよ」と言うと、「そうだね」と答えたと言います。歌詞は、もう1人の少年にも、関係者を通じて伝わったそうです。
 さだまさしは、言っています。
 「人間というのは、悲しいけれども過ちを犯すものなのですね。でも、本当に大切なことは、その過ちを犯した後なのです。犯してしまった過ちを、どのように引き受けて自らの生き方としていくのか。それが大切ではないでしょうか」

 人は皆、心の中が濁ることがあります。そんな時は、自らを静かに深く見つめてみましょう。濁った水でも、静まれば澄み、澄めば月がきれいに写るのです。心が澄んだ状態でいつもいられるように、努めましょう。
他の法話へ | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 12 | 13 | 14 | 15 | 16 | 17 | 18 | 19 | 20
| 21 | 22 | 23 | 24 | 25 | 26 | 27 | 28 | 29 | 30 | 31 | 32 | 33 | 34 | 35 | 36 | 37 | 38 | 39 | 40
| 41 | 42 | 43 | 44 | 45 | 46 | 47 | 48 | 49 | 50 | 51 | 52 | 53 | 54 | 55 | 56 | 57 | 58 | 59 | 60
| 61 | 62 | 63 | 64 | 65 | 66 | 67 | 68 | 69 | 70 | 71 | 72 | 73 | 74 | 75