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感謝する心は、まず自分を厳しく見つめなければ、起こりません。それも、自分の非力(ひりき)さ・至らなさを実感してこそ、生じるものなのです。

シェークスピアの言葉に「感謝することを知らない子供を持つことは、蛇の歯よりもいかに恐(おそ)るべきことか」というのがありますが、それはまさに他人の痛みを知らない、高慢(こうまん)な思い上がった人間が、自らの持っている毒に気づかずに噛みつくが如しです。

今から30年近く前に、15才で亡くなった、脳性麻痺の山田康文(やまだやすふみ)という少年が、その思いを表した詩があります。

康文君は、話すことができませんでした。そこで、養護学校の先生に、「イエス」の時は目をつぶり「ノー」の時は舌を出す、そのほか、顔の表情や全身の緊張という表現方法で、その思いを先生に伝えました。先生は、康文君の言いたい言葉を一つ一つ捜しあてながら、詩を作っていったようです。

そうしてできたのが、『おかあさん、僕が生まれて ごめんなさい』という詩です。

ごめんなさいね おかあさん
ごめんなさいね おかあさん
僕が生まれて ごめんなさい
僕を背負う かあさんの
細いうなじに 僕は言う
僕さえ 生まれなかったら
かあさんの しらがも無かったろうね
大きくなった この僕を
背負って歩く 悲しさも
「かたわな子だね」と 振り返る
冷たい視線に 泣くことも
僕さえ 生まれなかったら


康文君の詩を、先生が彼の母親に見せた時、彼女は目頭を押えて、立ちつくしていたそうです。

そのおかあさんから先生に、『私の息子よ』と題した詩が届いたのは、次の日のことでした。

私の息子よ 許してね
私の息子よ 許してね
このかあさんを 許しておくれ
おまえが 脳性麻痺と知った時
ああ、ごめんなさい!と 泣きました

いっぱいいっぱい 泣きました
いつまでたっても 歩けない
おまえを背負って歩く時
肩にくい込む重さより
「歩きたかろうね」と 母心
「重くない?」と 聞いている
あなたの心が せつなくて
私の息子よ ありがとう
ありがとう 息子よ
あなたの姿を見守って
お母さんは生きていく
悲しいまでの 頑張りと
人をいたわるほほえみの
その笑顔で 生きている
脳性麻痺の わが息子
そこにあなたがいる限り


この詩に表されたお母さんの心を受けとめた康文君は、また詩作に励みました。

ありがとう おかあさん
ありがとう おかあさん
おかあさんが いる限り
僕は生きていくのです
脳性麻痺を 生きていく
優しさこそが 大切で
悲しさこそが 美しい
そんな人の生き方を
教えてくれた おかあさん
おかあさん
あなたがそこに いる限り


この詩を表してから2ヶ月もたたずに、山田康文君は亡くなりました。

誰のせいでもない不幸な境遇(きょうぐう)の中で、この母子はお互いに相手に詫(わ)びています。

《懺悔(さんげ)の究極は感謝である》と言いますが、これらの詩には、深謝(しんしゃ)の念がほとばしっています。これほど、魂の寄り添った世界があるでしょうか。

お互いが感謝する気持ちを表せば、そこに必ずや【真の心の交わり】が、開けてくるのです。感謝の心を忘れないように、日々努めましょう。
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