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世界保健機関(WHO)の調査によれば、1990年から1995年の間に、世界各国の中で自殺者の多い上位二十ヶ国は、次の通りだそうです。

ハンガリー・フィンランド・スイス・ベルギー・オーストリア・デンマーク・フランス・スウェーデン・ドイツ・日本・ノルウェー・ポーランド・アメリカ合衆国・オランダ・ポルトガル・アイルランド・イギリス・スペイン・イタリア・ギリシャの順です。日本は、世界で十番目に自殺者が多い国となっています。しかし、この上位に並んでいる国々を見ると、ほとんどが文明の先進地域とされるヨーロッパであり、アジアでは唯一、日本が入っているだけです。

 なぜ、これらの国で自殺が多いのでしょうか。学者の中では原因として、都市化現象、高失業率、アルコール依存率・日照率・宗教文化などが関連深いとされています。そんな中で、フランスの宗教社会学者エミール・デュルケムは、上位の国のほとんどが北のヨーロッパのプロテスタント教国であることに注目しました。デュルケムは、

「ドイツの社会学者マックス・ウェーバーが指摘するように、資本主義の進行や文明の発展においては、教会や家族を通して神の恩寵に預かるというカトリックの集団主義的信仰よりも、個人の信仰により直接神の恩寵に預かるというプロテスタントの個人主義的信仰の方が貢献したかも知れないが、その反面、人々を競争に追い立てて貧富の差を増幅させ、落ちこぼれた人々に挫折感や孤独感を植えつけたため、自殺者が続出するようになったのではないか」

と、考えました。

では、日本の場合はどうでしょうか?

かつては『忠君愛国』とか『滅私奉公』といった美名の下に、国家や組織に忠義立てることを美徳とし、逆に国家や組織の恩に報いなければ、不忠者として叱責されました。しかし、そうした集団主義的な時代には、世間的な潔さはあっても、いざ疫病や飢饉などに因って自分が死に直面すると、後生を願って一心に神仏に祈願しました。

ところが今日では、国家や地域社会はおろか、職場への忠誠心や〈いえ〉への帰属意識すらも希薄になってしまいました。そして、各自が利己主義に走って、他を顧みない為、孤独感が深まり、宗教心も持っていない為、ひとたび挫折すると簡単に自殺に走る傾向があります。

しかも、テレビゲームの普及により、ヴァーチャル・リアリティを現実と勘違いして、死をもてあそび、せっかく授かった尊い命を軽視している傾向があります。ほとんど毎日のように殺人・傷害事件が新聞紙上を賑わし、自殺者も後を絶ちません。こうした人たちには、他人の痛みや宇宙自然への冒涜行為などということは、わからないのです。

現在の日本は経済大国となり、飽食の時代にあって生活に困らず、命への危機感が無いため、かえって物事に取り組む姿勢に真剣味が欠け、なかには労働意欲さえも無く、ただなんとなく無意味に日々を過ごしている階層までいる始末です。こうした階層に、いくら宗教の必要性を説いたところで「馬の耳に念仏」です。

しかし、健康を害したり、仕事上で挫折したり、周囲とうまく和合できず、悩んで悶々としている日々を送っている人は、どうしたらこの状態から脱することができるかに腐心しているに違いありません。そんな時、絶好の解決策が見つかれば良いのですが、なかなかうまくはいかず、万策尽きて行き詰まり、初めて宗教の門を叩くケースが少なくありません。

仏教詩人の相田みつをは、『そのときの出逢いが』という題で、次のような詩を詠んでいます。

 出逢い そして 感動
 人間を動かし 人間を変えてゆくものは
 難しい理論や理屈じゃ ないんだなぁ
 感動が 人間を動かし
 出逢いが 人間を 変えてゆくんだなぁ

私たちの周囲には、日常の何気ない人との出会いや出来事の中に、尊い縁起の教えが秘められているのです。それに気付かずに、ただ安閑と時を過ごすのは、誠にもったいないことだと目覚め、精進しなくてはなりません。

 澗水松風(かんすいしょうふう) 悉(ことごと)く 説法

 …谷川の水も松風の音も 悉く 教えを説いている
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